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Hemel op Aarde 地上の天国/バートとモニク

オランダ・ベルギー映画 (2013)

1979年のオランダの田舎町を舞台にした13歳の少年バートと、二十歳前の白血病の女性モニクのラブ・ストーリー。そう書いてしまうと、ありきたりの悲しいストーリーに思えるが、モニクが重病だと分かるのは映画が後半に入ってから、それまでは、13歳のバートと大人に近づいたモニクとのセックスといった問題シーンも含まれる思春期の少年のラブストーリー。13歳の少年のセックスシーンは、社会通念では好ましくないと思われるが、映画の中では、今日に至るまで、平気で取り上げられてきた。ただ、描き方は、1990年代以前と比べると、かなり抑制されてきていて、映像は非常に控え目で、かつ、美しく間接描写をすることで、観客が眉をひそめることなく鑑賞できるよう工夫されている。それにしても、なぜ、このようなシーンが必要だったのか? それは、モニクの白血病により、2人が永遠の離別という危機に瀕した時、バートの「決死度」を増すためだと言えよう。バートは、町の教会で神父を務める伯父と、その妹で信心に凝り固まっている母の影響を強く受け、信仰に生きる生真面目な少年。その少年が、「肉欲という大罪」を犯してまで好きになったモニクを、信仰の心でどう助けるのか? そして、信仰が全く役に立たないと分かった時、どうするのか? その悲しい愛の物語を描くことが映画の主題となっている。この映画には原作があるわけではない。なのに、映画の舞台をなぜわざわざ1979年にしたのだろう? その背景には、ひょっとしたら、白血病の治癒率が関係しているのかもしれない。日経メディカルOncologyニュースによれば、1981-85年と2001-05年とで10年生存率は急性リンパ芽球性白血病で30.5%から52.1%、急性骨髄芽球性白血病で15.2%から45.1%、慢性骨髄性白血病で0%から74.5%に上昇している。現代なら、モニクは助かったかもしれない。しかし、1979年の段階では、2人の仲はモニクの死で割かれるしかない運命にあった。結末は悲しいが、変に「お涙ちょうだい」にはなっていない。映画の全体に「愛」というメッセージが散りばめられていて、観る者の心を暖かくさせてくれるからだ。登場人物は、バートとモニク以外は、かなり極端な性格設定が見られるが、それはそれで、映画に一種の拡がりを与えている。

バートは母親によって、異常なほど信仰心の篤い少年に育てられていた。普通、少年が作るツリーハウスも、彼の場合は、ミニ教会の礼拝堂になっていて、中には立派な祭壇もある。放課後の一番の愉しみは、伯父が神父を務めている教会で、侍者として少しでも伯父の助けになること。だから、残りの3人の侍者からは浮いた存在になっている。そんな、真面目の塊で、堅物の象徴のようなバートは、ある日、ベルギーの大都会から田舎に引っ越してきた風変わりな一家の、長女モニクを見る。モニクは父に背負われなくてはいけないほどの病気だったが、バートはその美しさに打たれ、知り合いたいと神に願う。以前のバートからは信じられないような変化だ。モニクには弟ピーターがいて、バートのクラスに編入される。モニクに対する執心からピーターに近づいたバートは、一緒に入ったコンビニで、モニク用のタバコを買わされるが、ピーターは、そのタバコをモニクに渡す役を与えてくる。こうして、バートは初めてモニクに会う。バートは、モニクにますます惹かれ、2回目には聖書を持っていき、背中に日焼け止めのローションを塗らせてもらえる。小さなボトムだけを身につけたモニクを前に、バートは天にも昇る心地だ。その間に、ピーターが始めバートが加わったポルシェの無断運転が発覚し、視野が狭く自信過剰の塊の父が解雇される。バートが3度目にモニクを訪れると、彼女はひどい鼻血を出していた。白血病の再発によるものだが、バートには知る由もない。その日、バートはモニクに誘われるように交(まじ)わる。ところが、同じその日、父は、自分を解雇したボスのところに文句を言いに行き、大量の盗みを働き、飲酒運転で事故を起こす。家庭崩壊の始まりだ。一方、バートは、自分の犯した罪が恐ろしくなり、伯父の神父に懺悔をするが、到底信じてもらえない。バートにとってショックだったのは、4度目にモニクを訪れ、将来の結婚を申し出たところ、きっぱり断られたこと。そして、季節は夏から秋に変わる。教会では、伯父の宝物の聖杯が誰かに盗まれ(犯人はピーター)、父は、元ボスから損害賠償で訴えられる。バートは、久し振りにモニクに会い、恋心が再燃する。父の異常ぶりは限度を越えて入院させられ、こちらの方がバートには気がかりだったが、モニクが再びひどく出血して入院させられる。モニクのお見舞いに行ったバートは、そこで最愛の人が白血病だと知らされ、愕然とする。その後、バートの一家は、父が収入を断たれたことで、小さなアパートに引っ越さざるを得なくなり、それを境に、神父の伯父が妹である母の元に入り浸り、父の悪口を吹き込む。以前、バートが懺悔した内容も、秘匿の義務を逸脱して母に伝えられ、バートの居心地はどんどん悪くなる。そして、ミサの行われていたある日、薬の副作用で脱毛状態になったモニクが教会に来て、神の無慈悲についてバートに問いかけ、神父はそれに対しきわめて残酷な返事をする。すべてが嫌になったバートだったが、偶然、西ドイツに「奇蹟の治癒の聖母像」のあることを知り、国境を突破してモニクを連れて行く。そこでは奇蹟は起こらなかったが、バートとモニクの愛は、至高の域に達する。モニクの死の直前に呼ばれたバートは、ニ度と会うことのないモニクと最後の平穏な時を過す。

主役のバートを演じるブラム・ファン・スキー(Bram van Schie)は、設定は13歳だが、撮影時の年齢は不明。正面から見た顔は年齢以上に見えるが、横顔は幼く見える。映画への出演は、これ1作のみ。演技が上手だとは言えないが、信仰に凝り固まった少年の役なので、これが限界かもしれない。出番は少ないが、ピーター役のアーロン・ローハマン(Aaron Roggeman)は、1998年生まれなので出演時恐らく14歳。言動が良くないが、心は優しい複雑な役を、生き生きとこなしている。この映画と同年に作られたショートフィルム『Cadet』では、賞を2つ受けている。『Cadet』は、同年の公開なのに かなり年上に見える。そのことから、この映画の撮影がかなり前だと推定できる。可愛いという点では、バートとは侍者仲間のウィリーを演じるボス・ローマン(Bas Lommen)が一番悪戯っぽい。エンドクレジットに名前が出てくるだけなので、何も分からない。


あらすじ

時代は1979年。場所は、オランダの架空の田舎町。バートは朝起きると、服を着て、ベッドも整えた後で、窓辺に跪(ひざまず)いて唱え始める。「お早う、イエス様。お早う、マリア様。お早う、天使たち。パパとママとシェフ伯父さんと僕が、水難や火難に遭いませんように」(1枚目の写真)。ここで、独白の形で、バートがイエスに話しかける。「これから、ママとパパを起こします… 食器はもう洗いました… 今度は洗車です」。バートは、小さな木の箱のバイク・トレイラーを牽いて自転車で家を出る。途中で、「ハーマン家の一番下の子に自転車の乗り方を教えました」。自転車はさらに先へ。「シェフ伯父さんの買い物もしました」。バートは、箱一杯の野菜類を伯父〔神父〕に渡す(2枚目の写真)。伯父は、「ママによろしくな」と言う〔母の兄〕。「僕とあなたの礼拝堂もちゃんと進んでいます」。バートは、自分のツリーハウスとして、拾ってきた板で教会のようなものを作っている。バートは、その“礼拝堂”の中に設けたきらびやかな“祭壇”の前で祈る(3枚目の写真)。
  

バートは、そのまま町の教会に向かう〔撮影に使われたのはSt.Odliënberg教会〕。「好きだから、良いことなら何でもします。だから、グリース・バッジを捜すのを手伝って下さいますよね?」。グリース・バッジとは、1978年に封切られた学園ミュージカル映画『グリース』に因んだ丸いバッジのこと。バートは、教会に入ると、侍者の真っ白なアルバ〔チュニック〕を身にまとう。「それに、数学のテストでも いい点が取れたらなと思います」。最後の2つの願いは 少し打算的ではあるが、信仰心が篤いことは確か。これは、神父を兄に持つ母の強い影響だ。教会では、初聖体拝領式が行われている(1枚目の写真)。それを侍者として、シェフ神父の横に立って見ているバートは、「何て美しいのでしょう。地上の天国ですね」と 主に語りかける〔映画の題名〕。式が終ると、4人の侍者は控え室に入る。ウィリーは、さっそく棚からミサに使う白ワインを取り出し、ラッパ飲み。バートは、「そんなことしちゃダメだ」と止める。ウィリーは、「まだ、残ってるぞ、飲めよ」とビンを差し出す(2枚目の写真)。真面目なバートは、「いらない。棚に戻すんだ」と言うが、ウィリーは「アホが」と言って、もう1回ラッパ飲みをする。ただ、急いで飲んだので思わず咳き込んでしまい、ちょうど入って来た神父に、「どうした?」と訊かれる。「テントウムシが喉に入りました、神父様」〔英語字幕ではハエになっている〕。神父は、バートに、「ウィリーの話は本当か?」と尋ねる。「君が本当だと言えば、本当に違いない」。普通なら、友達を庇うものだが、バートは、「ウィリーは、ワインにむせました」とバラしてしまう。ウィリーは、主の祈りを5回、アヴェ・マリアの祈りを10回唱える罰を食らい、バートを睨む。神父(伯父)は、「勇気があるなバート。主もお忘れにならないぞ」と褒める。バートが教会の外に出ると、隣に停めてあった自転車のタイヤにグリース・バッジを見つけてにっこりする(3枚目の写真)。神様からのご褒美だ。
  

バートが家に帰ると、電気器具販売会社に務めている父は、会社から持ってきたビデオカメラを使って家の中の物を撮っている。自分のステレオを撮影しながら、「スイスで製造し西ドイツで組み立てた」と誇らしげに言う。ヨーロッパ製に異様な誇りを持っているくせに、カメラは日立製。首から、コンバーターを下げ、さらに、そこからTVにつないでいる。父は、バートを呼ぶと、顔をクローズアップで撮るが、それがリアルタイムでTVに映っているのを見たバートは、びっくりする(1枚目の写真、矢印はTVに映ったバート)〔1979年の段階では、信じられないほど革新的〕。「すごいね! 新製品?」。「届いたばかりだ。会社が貸してくれた。使い方を知るためだ。今後、古いTVはどうなるんだろう」。そして、「お前の部屋を見て来い」と言う。バートの部屋には、旧式のTVがプレゼントされていた。母は、「あの子、まだ13よ。何を観るか分からないじゃないの」と文句を言う。その直後は、夕食前の祈りの場面。母は熱狂的な信者なので、お祈りも普通より長い。父は、醒めた信者なので、途中でつまみ食いをする(2枚目の写真)。食事が済み、自室に行ったバートは、さっそくTVを点ける。チャンネルボタンを押すと、ポルノ映画に切り替わる。バートは、驚いて切り替えるが、天を仰いでから、ポルノ映画に戻す。ベッドに腰掛けて観ていると、いきなりドアが開き、父が「ちゃんと見えるか?」と言いながら入って来て、ポルノを観ていたこともバレる。父は叱らず、「お前の年頃の子なら、こうしたものに興味を持って当然だ。大人への第一歩だな。訊きたいことがあれば、いつでも相談に乗るぞ」と懐が広い。そこに母が入って来る。父に用があったからなのだが、TVの画面を見て仰天する。「何を観てるのよ!」(3枚目の写真、矢印)。父は、「今、話していたところだ」と言うが、母はすぐにスイッチを切る。「こんな厭(いや)らしいもの。子供を授かるというのは、神聖なことなのよ。それなのに、こんな禁じられたものを観るなんて。今週はお小遣い あげませんからね」。
  

教会で。葬儀があるので、侍者も黒づくめ。神父は、用意したリボン付きの花輪を堂内に持って行く(1枚目の写真)。残された4人の間で会話が始まる。ウィリー:「昨日の夜、『エマニュエル夫人』、誰か観たか? フロスは?」。フロス:「観たよ。ハーマンは?」。ハーマン:「もち、観たさ」。ウィリーは、「それで、バーチ・ヘーラッツ〔バートのフルネーム〕は、観たのか?」と、悪戯っぽく訊く(2枚目の写真)。バートは「少し」と答える。ウィリー:「『少し』? ホントか?」。ハーマン:「変だな。君のママは、ウチのママに、あんな映画は絶対に観せないって言ってたぞ」(3枚目の写真)。フロス:「ママが禁じてるのか? 哀れだな」。
  

4人が白のアルバを羽織って町を歩いていると、引っ越してきた家族の前を通り過ぎる。最初に見たのは、奥さんが乗ってきた真っ赤なランチア。その前には大型の引越し専用トラックも停まっていて、横には、「ANTWERPEN-BRUSSEL-LUIK」と書かれているので、ベルギーのフラマン語圏からの引越しだと分かる〔Antwerpenはフラマン語圏にあるので この標記で正しいが、フランス語圏にあるLiégeをわざわざフラマン語でLuikと標記するのは、運送会社がフラマン語圏にあることを示している〕。バートが振り返って見ていると、後部座席の窓が開き、1人の少年(ピーター)が顔を出し、「お前、何見てるんだ?」と訊く。「あの家だよ」。「あれは、俺のウチだ。他の物でも見てろ」。そう言うと、トラックから降りてきてバートの前に立つ。手を伸ばして、アルバの下の黒衣のさらに下に付けていたバッジを見ると、「グリースか。それって、女の子用じゃないのか?」と嘲り(1枚目の写真)〔『グリース』のファンは女の子が圧倒的〕、「アバ〔新約聖書の父なる神〕のファンだしな」とダメ押し。フロスが、「顔に、一発食らわせてやれよ」とバートに促す。ピーターは、4人に向かい、「“黙示録の四天使”ってワケだな」と嫌味を言い、それに対し、ウィリーが、「まともなオランダ語 話せないのか?」と、訛りの強いオランダ語で訊く〔これに関して、面白いコメントがあった。「この映画は、演技者の訛が強すぎて聞き取れないため、オランダ国内でも字幕が付いている」というもの。オランダのような小さな国に そんな強い方言があるとは知らなかった〕。バートは、「“黙示録の四騎士”だ」と訂正する。メルセデスを運転して到着した父親から、「ペーテル、もう友達ができたのか?」と訊かれると、ピーターは、「ううん、只のバカなグリース・ファン」と答える。その時、メルセデスの助手席でカメラのストロボが光る。父親は助手席を開けると、中に座っていた若い女性(モニク)を背負って外に出す。4人の目はモニクのきれいな金髪と剥き出しのお尻に釘付けになる(2・3枚目の写真)。
  

ハーマンは、「ウチのママが言ってたけど、あの人、町で店を開くんだって。女の人は病気だそうだ。それに、一度も教会に行ったことがないって」。バートは、ひらすらモニクを見つめ続ける(1枚目の写真)。ウィリーは、そんなバートを見て、「夢でも見てろ。叶うはずない」と嘲るように言う。暗くなり、木の礼拝堂に行ったバートは、天を見上げて、「こんなことを言うのは初めてですが… あの女性が好きになりました。とても美人です。彼女と知り合いになりたいです」と願う(2枚目の写真)。バートは、開業を準備中の店を見に行った時のことを思い出す。そこは、レンタル・ビデオの店だった。主に向けての語りかけは、さらに続く。「あなたは、人の助けになれとおっしゃいます。彼女は病気です。助けてあげるべきですよね?」。バートは、その日、一家が引っ越してきた家の前で、モニクが顔を見せないか、薄暗くなるまで待ち続ける(3枚目の写真)。
  

翌日、学校で。算数のテストが返される。先日バートが祈った通り、バートは最高点をもらった。そして、「どうやったのかは知らんが、君には守護天使がついてるな」と教師に言われる(1枚目の写真)。教室のドアが開き、ピーターが姿を見せる。「ああ君か、入りなさい」。ピーターが教室に入ると、一番後ろに座っていたハーマンが、「あいつの母さん 他の男とヤッたんだ。だから、ここに越して来たんだってさ。ママが言ってた」とウィリーに囁く。教師は、「みんな、新しいクラスメイトだ。ピーター・フェハイユ君。アントウェルペンから来た」と紹介し、「ピーター、何か言いたいことは?」と訊く。「何も」。このぶっきらぼうさに、生徒たちは笑う。「座りたい場所はあるかい?」。ピーターは、バートの隣のフロスを指差して、「あそこがいい」と言うが、フロスは「僕がいる」と反対。教師は、「ウィリーの隣はどうだ? 緑の服の子だ」と言うが、ピーターは、「好きな場所が選べるって言ったよね」と ごり押し。フロスは後ろに下がらされ、ピーターはバートの隣に座る。フロスは、ピーターに、「売春婦の息子って、どう呼ぶか知ってるか?」と、嫌味を言うが、ピーターに顔を殴られ、「あと一言でも言ったら、殺してやる」と脅される。そんなピーターを見ていたバートは、「何を見てる?」と言われ(2枚目の写真)、あわてて前を見る。学校が終り、歩いて帰るピーターに、自転車を押しながら歩くバートが声をかける。「君か病気の姉さんに、何かできることがあれば、言ってくれていいよ」(3枚目の写真)。「金は持ってるか?」。
  

ピーターはバートと一緒にコンビニのような店に入る〔チェーン店ではない〕。ピーターは、お菓子の棚から勝手に幾つか拝借してポケットに入れながら、「姉さんは、タバコを欲しがってる。それと、見つからないよう見ててくれ」と言う(1枚目の写真)。レジにいた3人の話好きが去り、レジ係の女店主が、「何にする?」とバートに訊く。「タバコを1箱、お願い。父さんのです」。店主が、1箱取り出すと、それを見ていたピーターが、「ベリンダ」と、別の銘柄を指定する。バート:「ベリンダにして下さい」。「赤か緑のどちら?」。ピーターが、「緑」と言う(2枚目の写真)。「緑にします」。「お父さんに、緑のベリンダね? 他には何か?」。ピーター:「それだけ」。バートが、「それだけ」と言い直す。店を出たバートは、「どうかしてるんじゃないか? 盗みは罪だ」とピーターを責める。「お前だって、見張ってたじゃないか」。「君を助けただけだ」。「許されないことは、何もしないのか?」。「しない」。ピーターは、「なら、タバコを寄こせ。俺から姉さんに渡す〔I'll give them to my sister/Geef ik ze wel aan mijn zus〕」と言うが、この台詞は間違っている。「なら、タバコを受け取れ。お前から姉さんに渡せ」と言うべきだ。なぜかと言えば、この台詞を言う時、ピーターは既に左手にタバコを持っているし(3枚目の写真、矢印)、その後、バートが姉モニクに渡す時も、ピーターから受け取った形跡は全くないからだ。
  

バートは、願いが叶い、ピーターと一緒にモニクの家に入る。家の中では、町の医者が病気のモニクの診察をしていた。医者は、顔見知りなので、「やあ、バート」とほがらかに声をかける。バートは、ピーターが登校初日からに連れて来た友達と思われたに違いない(1枚目の写真)。バートは、診察が行われている部屋の隣のキッチンに座り、時々、振り返ってはモニクの様子を窺っている。特に、診察で、服をまくり上げられた時には。モニクの方も、見られていることが気になり、バートを見るが、バートはうまく顔の向きを変えて隠す。しかし、次第に2人とも気にしなくなる。バートがじーっと見ていて、それに対してモニクがバートを見ても、バートは視線を逸らさない(2・3枚目の写真)。これは、「あなたに関心があります」というバートの強いサインだ。医者は、「お嬢さんは健康です。アントウェルペンでの検査結果もそれを裏付けています」と述べ、両親を喜ばせる。母は、「もう、お友達と出かけられるわね」と嬉しそうに言うが、モニクは、「友達? ここには一人もいないわ」と答える。
  

両親と医者がいなくなると、ピーターが、「ほら、行け」とキッチンの反対側からバートに指示する〔家に帰った時からピーターはずっとこの位置。そして、「ほら、行け」との指示。先に述べたように、ピーターがタバコをバートに渡す機会はゼロ〕。バートは、立ち上がると、ソファにうつ伏せになってタバコの来るのを待っているモニクに手渡す。「ありがとう」(1枚目の写真、矢印)。「いただいて、いいのかしら?」。「どうぞ」。モニクは、タバコに火を点けると、ソファの上に、露な姿で仰向けに寝る(2枚目の写真)。「どんな病気なんですか?」。「『3ヶ月ごとに変わる』って病気なの。前は単核球症だった」〔発熱、咽頭扁桃炎、リンパ節腫脹、発疹、末梢リンパ球増加、異型リンパ球増加、肝機能異常、肝脾腫などを示す急性感染症〕。「今は?」。「さっき聞いたでしょ。健康だって」。その時、父親が入って来たので、モニクは、吸っていたタバコをバートに渡す。バートは、モニクを庇い、自分が吸っていたように見せる。息子の同級生なので、13歳の子が平然とタバコを吸っているのを見て父親は目を剥くが、他人の子なので何も言わない(3枚目の写真)。バートが気に入ったモニクは、インスタントカメラでバートを撮影する。これが彼女の唯一の趣味。こうして、1回目の訪問は大成功に終わった。
  

自宅に帰ったバートが居間でTVの買い物番組を観ていると、父が、「台湾製や日本製のがらくた」と悪口を言うシーンがある。1979年には、日本製はもう「ガラクタ」ではなかったし、台湾製はまだ進出していなかったので、これはお粗末な脚本が悪い。そして、この偏見に満ちた父は、ボスがこうした「がらくた」を取り扱いたがっていて、自分はそれを拒否したと自慢げに話す〔それが原因で、後でクビになる〕。父は、ビデオ店についても批判する。「誰が、ビデオなんか借りに行く。すぐにタダでTVで見られるのに」。旧弊なだけの敗残者だ。母は、「シェフ〔兄の神父〕の話じゃ、教会にも来ないそうよ」と批判する。こちらは、信仰のことしか頭にないガチガチ女。最悪の両親だ。父:「レンタルなんて! 3ヶ月でつぶれちまうぞ」。バートが、「僕、女の子と話したよ。とっても素敵だった」と割り込むと、父と母も心配になって居間に来る。母:「私は反対よ」、父:「その通りだ」(1枚目の写真)。母:「ああいう連中と付き合っちゃダメ」。2人は、心も貧しい。バート:「イエス様は、罪人とだって話されたよ」(2枚目の写真)。母:「いつから。イエス様になったの? うぬぼれるんじゃないの。大罪よ」。バートは、翌日、もう一度コンビニに行く。レジに行き、「僕の友達が…」と、言いにくそうに始めたところで、顔見知りの警官が、「手を上げて、パンツを下げろ」とピストルを向けて、冗談で脅す。そして、「欲しいものをさっさと言って、出てくんだ」とバートを急がせる〔警官は、女店主といい仲なので、バートが邪魔〕。「何かご用?」。「僕の友達が、払うのを忘れたんです。ラングのキャンディー1本と、スティムローのガム2個と、チョコバー3本を。僕が払いに来ました」。警官は、当然、怪しみ、「友達の名前は?」と尋ねる(3枚目の写真)。「ベルギーから来たビデオ店の子です」。「バカな悪ふざけは 二度とやるなと言っとけ」。バートは支払った後、モニク用にタバコを2箱買う。バートは木の礼拝堂に行くと、タバコを買ったことを、「僕、心から彼女を助けたいのです。あの一家を教会に連れて行ければと思います」と正当化する。
  

バートはピーターに、住宅街を歩きながら、「もし、君が良い行いをすれば、地上に天国を創り出せる」と言い、ピーターは、「お前、新聞とか 読んだことあるんか? 世の中、そんなに甘いもんじゃない」と反論する。バート:「生きてることを感謝し、良い行いをし、神を信じるんだ」。ピーター:「神なんて、死が迫った奴が、永遠の命を願ってすがるだけ存在さ」。2人は車道を歩いていたが、そこを自転車で通りがかったおばさんが、「歩道を歩けないの?!」と注意していく〔車など1台も走っていない〕。「君とモニクは、なぜ教会に行かないの?」。バートは、教会からの「便り」を次の家のポストに入れに行く。その家の前には、真っ赤なポルシェが停めてある、ピーターは乗ってみたくなり、勝手にドアを開ける(1枚目の写真)。それに気付いたバートは、急いで戻り、「今度は、何するんだ?」と訊く。「乗れよ。楽しもうぜ。お前が乗れば、教会に出てやってもいいぞ」。「車を盗む気?」。「誰が盗むっていった。1ブロック、楽しむだけだ」(2枚目の写真)。「運転できないくせに」。「できるんか?」。それだけ言うと、ピーターは、車を動かす。操作の仕方を知らないので、少し行っては停まるのをくり返す。50メールほど進んだ先のT字路で停まる〔曲がり方が分からない〕。その時、盗難に気付いた持ち主が家から飛び出てくる。バートは、肩からかけていた鞄を放り投げて男を転倒させて遅らせると、ピーターを助手席に移らせ、車を発進させる。そして、100メートルほど走ると、車を停めて逃げ出す(3枚目の写真)。
  
住宅街から離れた河原まで逃げてきた2人。ピーターは、「これで、俺たちホントのダチだ」と言い(1枚目の写真)、困った顔をしているバートに手を差し出す。2人は握手する。バートは、少しでもピーターが信仰に目覚めればと思い、自分の礼拝堂に連れて行く(2枚目の写真)。「お前が作ったのか? 一人で?」。「ああ」。「何て奴だ」。もう夕方近くになっていたが、2人は、そこで真っ暗になるまで一緒にいる。「お前、教皇にでもなる気か?」(3枚目の写真)。バートは、笑って答えない。
  

翌日、バートは、プレゼントを持ってモニクを尋ねる。プール付きの家なので、バートの家よりは格段に贅沢だ。モニクは、目の前に忽然と現われたバートを見て、「ここで何してるの?」と訊く。「ピーターはいる?」。「いいえ。母と買物に行ったわ」〔バートは、モニクと2人きりになれるよう見張っていたのか?〕。モニクは、「あなたを最初に見た時、ほんの子供だと思ったけど、運転できるの?」と尋ねる。「うん。父さんが、時々、こっそり車庫入れさせてくれたから」。「どこをどうすれば どうなるかも、ちゃんと知ってるの?」。「うん」。バートは、持参したプレゼントを、「これ、どうぞ」と渡す(1枚目の写真、矢印)。「私に?」。「うん」。モニクが期待しながら包装紙〔もちろん、『グリース』のジョン・トラボルタとオリビア・ニュートン・ジョンの写真入り〕を開けると、中に入っていたのは何と聖書。モニクは困惑する。「聖書? 私って救いが必要なの?」。「ううん。だけど、読めば、神は愛だって分かるよ」。「普通の子なら、花を贈るわよね」。そして、「座ったら?」。バートは、モニクの前のイスに座る。モニクは、「ありがとう」と言って聖書を床にポンと置くと、「暑いわね」と言い、立ち上がると髪を留めていたピンを外し、スカートとTシャツを脱いで水着だけになる(2枚目の写真)。バートは、見ているのが恥ずかしくなり、顔を伏せる(3枚目の写真)。モニクは、デッキチェアにうつ伏せに寝ると、ブラを外し、背中にサンオイルを塗るよう頼む(4枚目の写真)。「『グリース』は、何度も観たの?」。「友達と2回、1人で1回。すごくかっこよかった」。「オリビア・ニュートン・ジョンが好き?」。「すごく」。「ジョン・トラボルタは弱気〔watje〕だったわね。『サタデー・ナイト・フィーバー』じゃ、もっとタフだったのに」。「観に行くの、許されなかったんだ。いとこは、泣きながら出て来た」。モニクがボトムを少し下げると、バートを天を見上げて許しを請う。
   

翌朝。いつもの朝の祈り。違うのは、「パパとママとシェフ伯父さんと僕」の後に、モニクを加えたこと。その日は、起きたのが遅かったらしく、祈りが終わると同時に、母の「バート、来なさい!」と叱るような声が響く。バートが、「どうかしたの?」と居間に行くと、母は、「フェハイユの子と、ケルナーさんの車に無断で乗ったの?」と詰問する。「ピーターが乗って、事故を起こしそうになったから、僕が防いだんだ」。その時、背後から、「聞いた話と違うぞ」と声がかかる。そこには、先日の警官がいて、バートが放り出した鞄を見せ、放って寄こす〔バートが持ち主の追跡の邪魔をしたことを問題視〕。「運転したの、しなかったの?」。「したよ」。母は、息子に運転を教えたことで、猛然と父に食ってかかる。父は、ケルナーは昨年までトレーラーで生活していたような貧しい男だったが、突然 立派な家に住み、ポルシェを乗り回すようになったと知っているので、非難など歯牙にもかけない。警官は、そのことと、2人が勝手に車を運転したことは別だと注意する。それでも、父は、「バートは事故を未然に防いだ」と庇う(1枚目の写真)。警官は、2人がコンビニで盗みを働いたことにも触れる。この拡大解釈には、バートが怒る。「お金は、ちゃんと払った」(2枚目の写真)。しかし、母は、「盗み! あの子には、二度と会っちゃダメよ。あの一家は邪悪だから」と、こちらも過剰反応。警官は、ピーターを不良だと確信しているので、「それも、悪くはないですな」と言い、「今回の件でケルナーさんは訴える気はありません。私は、警告に来ただけです」と締めくくろうとする。しかし、父は、「もちろん、そうだろう。あいつ自身、悪者なんだからな」とケルナーの降って湧いた幸運を軽蔑し、母は母で、「シェフは教会でフェハイユの一家を一度も見たことないそうよ。ティリーの話では店の奥は卑猥なビデオで一杯だとか」と言った上で、批判の矛先を夫に向ける。「それに、あなた、最近、いろいろ忙しそうね。バラしちゃいましょうか?」。そう言った上で、警官とバートに向かって、「ヴィル〔夫〕は クビになったの」と爆弾発言をする(3枚目の写真)。夫は、「経費削減のためだ。給料が一番多い順だ。後で後悔するに決まってる」と言うが、原因は、前にも触れたように、父が、日本製品をガラクタだと思っていて、ボスの経営方針〔日本製品の取り扱い開始〕に反対したため〔ザマ見ろと言いたい〕
  

バートは、すぐに教会に行き、マリア様の前で問いかける(1枚目の写真)。「理解できません。僕は、地上に天国を創ろうと頑張ってきました。なのにパパは解雇されました。確かに、彼女にオイルは塗り、日焼けを防ぎました。彼女のためにしたんです」。その時、シェフ神父が「バート」と声をかける。「もう閉めるぞ」。「代わりに任せてもらえませんか、シェフ伯父さん?」。「大変な重責だと心得ているのか? ロウソクを消し、照明を切り、床にモップをかけ、ドアを施錠する。責任が重いぞ」。「良いことがしたいのです」。伯父は感動し、バートに鍵を任せる(3枚目の写真、矢印)。バートは、さっそく、床を掃除し、会衆席に1冊ずつ聖書を入れていく。そして、すべてのロウソクの火をロウソク消しで消す。
  

すべてを終えてバートが教会から出ると、そこに、教会に一番相応しくない人物が待っていた(1枚目の写真)。ピーターだ。ピーターは、「来たぞ。お前の教会を見せてくれ」と言う。「今、閉めたとこだ」。「そりゃ残念だな。モニクのことで話があったのに」。不信心のピーターが教会に入りたがり、おまけに、モニクの話をするとあって、バートは。一も二もなく 鍵を開けてピーターを中に入れる。しかし、それは大失敗だった。ピーターはマイクを取ると、大声で歌い出し、しかも、最初は床の上で歌っていたのが、土足のまま会衆席に乗り、ロック・コンサートのつもりで歌い続ける(2枚目の写真、矢印は困り果てたバート)。バートは、そのまま奥に入って行くと、マイクのスイッチを切る。そして、「モニクのことで、何が言いたかったんだ?」と訊く。ピーターは、それには答えず、奥の部屋に入って行くと、白ワインのビンと、神父が大切にしている金の聖杯を持ち出し、「親爺が、お前と“保安官”のことを言ってた。俺は、車を盗んだなんて これっぽっちも覚えてない。お前がベラベラ話したんだろ? だが、俺もここに来て何だかちょっとは変わった気がする。お前のこと、初めは怒ってたけど、もう許してやる。お前が、嘘をつけないって知ってるからな。それに、俺たち友達だろ?」と言うと、最後に、「モニクは、今夜、一人で家にいる。親爺達は、『クレイマー、クレイマー』を観に行った」と、貴重な情報を教えてくれる。そこまで言うと、ピーターは、キリスト像を見て、「俺には理解できんな。死体なんか、なぜ拝むんだ?」と訊く。バートは、さっそく、「この方は、死んじゃいない、苦しんでおられるんだ。そして、僕達のために天国への門を開けて下さっているんだ」と答え、ピーターは、「じゃあ乾杯だ」と言って、金の聖杯に並々とワインを注ぐ(3枚目の写真、矢印)。バートは、最後に、「モニクが今夜一人だって、なぜ僕に教えるんだ?」と尋ねる。「助けたいからさ。その気があるなら、会いに行けよ」。
  

翌日、失職した父は荒れている。あちこちに電話をかけるが、彼の凝り固まった考えは、誰からも相手にされない。バートは、自室の壁に飾った『グリース』の2人の写真と、聖母マリアの絵を見比べながら、結局、モニクの気を惹こうと派手なアロハシャツを着る。バートが、先日のようにプールの側から入っていくと、モニクは電話をかけている最中。しかし、バートが驚いたことに、モニクの顔や服は鼻血で真っ赤になっている(1枚目の写真)。バートが心配しながらドアを開けて中に入ると、モニクも電話を終え、バートの方を見ようとするが、少しでも血を止めようと、顔は上げたまま(2枚目の写真)〔これほどのひどい鼻血は、急性リンパ性白血病を疑うべき〕。モニクは、この町に着いた時から病気だったので、病名を知っていたのかもしれない。もし、そうだとすれば、地元医の「健康です」というのは、「寛解」状態になったことを意味しているだけで、再発の可能性が高いことも〔鼻血は再発のシグナル〕。「どうしちゃったの?」。「TVを観てたら、突然 鼻血が出始めて止まらなくなったの」。バートは、鼻に詰めてあったタンポンを抜くと、鼻を強く押さえて顔を下に向ける〔正しい処置〕。そして、天を仰いで血が止まるようにお願いする(3枚目の写真)。どのくらい押さえていたのかは分からないが〔5分ほど?〕、天井のクロスに十字架が光ったように見え、モニクが「止まったわ」と微笑む。「ありがとう。怖かったの」。
  

バートは、相手を気遣って帰ろうとすると、モニクは引き止め、ワインのビンを取ってくると、部屋に連れて行く。そして、血を落とし、服を着替え、カツラを被ってバートの前の現われる(1枚目の写真)。バートは、「かっこいいね」と言うと、横に置いてあったインスタントカメラでモニクを撮る。何枚も撮っていると、モニクがバートの隣に座り、カメラを左手に持つと、バートの頬にキスしたところを撮影する(2枚目の写真、矢印は光ったストロボ)。写真は、すぐに出てくる(3枚目の写真、矢印)。
  

モニクは、一旦、ベッドに座るとカツラを外す。そして、再度立ち上がると靴を脱ぎ、スカートを脱ぎ、次いで、ブラウスも脱ぐ。先日のビキニとは違い、下着だけなので、バートは緊張してコチコチ。モニクは、「私って、きれい?」と尋ねる。バートは、恥ずかしそうに「うん」と答える。モニクは、バートの前に来ると、何度も口にキスをする(1枚目の写真)。そして、バートの上着を取る。バートは、「こんなこと、許されないよ〔We mogen dit niet doen〕。罪だから」。「だけど、あなた、『神は愛』だって言ったでしょ」。そう言うと、アロハシャツも取る。「ほんとに、したくないの? こんなところで横になってるだけ? 何もせずに?」。「どうしていいか 知らないから」。「私は、知ってるわ。だいたい〔Ongeveer〕」。バートは、緊張するのをやめて微笑む(2枚目の写真)。モニクはブラを外し、パンティを脱ぐ〔足元に落ちるパンティを映すだけ〕。バートは、靴下を脱ぎ、シャツは、モニクが引っ張って脱がせる(3枚目の写真)。モニクがバートのベルトを外し、足元に落ちるバートのパンツが映る(4枚目の写真)。映像は、きわめて抑制されていて、2人の裸体などは映さない。2人はベッドの上で向き合う〔カメラが斜めになり、顔しか映していまいので、ベッドで全裸で横になっているという淫らさがなく、思春期の夢のような感じが強調される〕。「怖い?」。「うん。とっても」。「私も」。バートが顔を近づけ、モニクの顔が一瞬変わる。バートの表情も変わる。「これでいいの?」(5枚目の写真)。モニクは頷く。これは、ペニスが挿入されたことを意味する。ここで場面は切り替わる。この映画はポルノではないので、バートのきわめて異例な体験を、間接的に、かつ、美しい色彩で夢のように描いているところが素晴らしい。因みに、ファースト・セックスで最も幼いのは、フランス映画『Quand j'avais 5 ans je m'ai tué』(1994)の10歳のジルと9歳のジェシカのラブ。ずっと以前に紹介したフランス・ベルギー映画『Préparez vos mouchoirs(ハンカチのご用意を)』(1978)の12歳のクリスチャンと大人の女性ソランジュのラブが次に若い〔妊娠までさせる〕。何れも、監督は、観客に嫌悪感を抱かせないよう務めているが、この映画が一番美しい。それは、このセックスが“到達点”ではなく、バートとモニクの悲しく美しい物語の“発端”になっているからであろう。この後、しばらくすると、夏の終わりとともに、映画の煌(きら)びやかな色調は、次第に、暗く無彩色に近いものへと変わっていく。
    

夜になってバートが川沿いの小路を歩いていると、頭上の橋の上で車の衝突音が聞こえ、投げ出された多くの箱が川に落ちてくる(1枚目の写真)。バーチの足元に落ちてきた箱の中には、テープレコーダーが入っていた。こんなものを持っているとしたら、父しかいない。バートは走って橋まで登ると、橋面には荷物が散乱している〔父がボスから盗んできた電気製品〕。そして、欄干にぶつかった車の中には父が血を出して気絶していた(2枚目の写真)。バートが恐る恐る顔に触ると、父は気付き、「奴に言ってやった」と嬉しそうに言う〔泥酔状態〕。父は、朝、かつてのボスに文句を言いに飛び出していったが、その結果がこのザマだ。彼は、敗残者になるように運命付けられているらしい。バートは天を仰ぎ見る(3枚目の写真)。バートは、「これは、僕の重い罪に対する天罰だろうか?」と自問したのかもしれない。1979年12月に、日本で世界初の自動車電話が始まったくらいなので、1979年の夏にオランダには存在しない。公衆電話もない場所で どうやって救急車とパトカーを呼んだのかは謎だが、いつもの警官は、壊れずにすんだ最新型のTVをパトカーに運び入れる〔ちゃっかり ネコババ〕。父は、バートと一緒に救急車に入れられるが、その時、「バート、俺は何か悪いことしたか?」と訊く。この言葉も、バートには、ずきんときたであろう〔バートは、最も重い“肉欲の大罪”を犯してきたばかり。自分のせいで父に天罰が向けられたと思っている〕
  

翌日、バートはすぐ教会に行き、シェフ神父に懺悔をする。「神様は、僕が犯した罪で、他の人を罰しますか?」。「いいや。罪とは個人的なものだ」。「確かですか?」。「もちろん。君のパパが罰せられたのは全く別の理由からだ。ブラバント〔北ブラバント州〕の出身者には、傲慢は失敗の元となる」。「でも、旧約聖書では、神はエジプトの初子を、何もしていないのに殺しています」〔出エジプト記12章にある、「十の災い」の10番目、「主はエジプトの地のすべての初子を、王座に着くパロの初子から、地下牢にいる捕虜の初子に至るまで、また、すべての家畜の初子をも打たれた」のこと〕。「君が、神を理解する必要はない。それは私の仕事だ」。「イエス様は、世界の罪を 自ら負われました」〔ペトロの手紙一2章24の「十字架にかかって、わたしたちの罪をご自分の身に負われた」のこと〕。「君は、イエス様なのか? そんなことより、ベルギー人の子と一緒に車を盗もうとしたことを懺悔すべきだと思うがな」。「僕、もっとずっと大きな罪を犯しました。女の子と寝ました」。しかし、伯父は「女の子とだと、何て懺悔」だと笑っただけで本気にしない。「モニクとです。フェハイユさんの」(1枚目の写真)。「君と、お母さんは、今、大変な状況にある。だからと言って、空想に逃避するのは良くない。現実と向き合うんだ」。「でも、本当なんです。僕は、肉欲の大罪を犯しました」。伯父は、バートが父と同じような固執癖になったに違いないと思い、周りに聞こえるような大声で叱る(2枚目の写真)。
 

バートは、2回目に会った時「普通の子なら、花を贈るわよね」と言われたのを覚えていて、赤いバラの花束を持ってモニクのもとを訪れる。そして、バスルームにいるモニクを探し出し〔風呂に入っているわけではない〕、「いくぞ」と自分に言い聞かせると、「愛しいモニク、まだ知り合ってすぐだけど、愛してる」と言い、跪(ひざまず)き、「結婚してくれますか? 今じゃなく、僕が18になったら」とお願いする(1枚目の写真)。そして、首から十字架のついたネックレスを外すと、「僕達、一心同体だ」と言って渡そうとする。しかし、モニクは、「私が悪かったわ。あなたに惚れてなんかいない」と、きっぱり拒否されてしまう(2枚目の写真)。いたたまれなくなったバートは、「じゃあ、もう会わないようにするよ」と言うと、すぐに その場を去る。バートは、橋の上からバラの花束を捨てる。そして、木の礼拝堂に行くと、天に向かって話しかける。「主よ、お許し下さい。僕は、いい子になります。もう決して盗みません。女の子とは二度と寝ません」(3枚目の写真)「すべてを、元通りにします。あの人達のことは忘れます」。
  

そして、一気に晩秋に。紅葉した木の葉もほとんど落ちている。ここから、画面の彩度ががくんと落ち、輝度も落ちて薄暗くなる。だから、以下の写真は、少しだけ明るく加工した。バートは、いつものように、自転車に乗って教会に向かう(1枚目の写真)。このあらすじでは、St. Odliënberg教会の全景を初めて見ることができる。小さな町という設定の割には立派な教会堂だ。バートが、堂内に入った落ち葉を掃除していると、シェフ伯父が祭壇の上に箱を置き、中が空であることを見せる(2枚目の写真、矢印)。そして、「私の金の聖杯はどこだ?」と訊く。「もし、このことで何か知ってるなら、話しなさい」。「以前、ピーターがここに来た時、聖杯を見ていました」。ピーターには前科があるので、シェフ伯父は、ピーターが犯人だと確信する。「教会から盗むとは!」。「でも、確かじゃありません」。「君は、あの少年に、何度も振り回されたじゃないか。あの聖杯は、聖職に就いた時に母から贈られたものなんだ」。「でも、証拠がありません。訊いてみましょうか?」(3枚目の写真)。「盗難は警察の仕事だ」。
  

バートの家に、弁護士か代理人が来て父と話している。内容は、夏に、父が起こした事故について。父は、「ただの冗談だった。うっぷん晴らしさ。ボスは、まだ怒ってるのか?」と改心の様子はゼロ。母は、「ボスからあれだけ盗んで、酔っ払って橋にぶつかってれば当然でしょ」とたしなめる。話の間、バートは横のテーブルに座って本を読むフリをしながら(1枚目の写真、矢印は写真)、実際には、モニクの写真を見ている(2枚目の写真)。数ヶ月会っていないのに、そして、神にも誓ったはずなのに、未だに忘れられないでいる。男は、「あなたは、警察でソーシャルワーカーと話していましたね」と話題を変える。父:「ああ、ヒッピーみたいな女が、俺の目を覗き込んで、助けが要るとかほざいてたな」。「私もその女性と話して、意見の一致をみました。あなたが回復するには、専門家の助けが必要だということに」。父は、話題を元に戻す。「いいか、ベアは仕事中に飲んでた。俺は、そのことをボスに話した。そしたらどうだ、クビになったのはベアじゃなくて俺だったんだ」。彼は、未だに、クビになったことを恨んでいるし、クビになった理由も理解していない。「ベアは今でも飲んでるのに、俺は専門家の助けが必要な盗っ人になっちまった」。父が、すぐに本題から逸れるので、男は、「簡潔に言いましょう。ローマン〔元ボス〕氏は、あなたが精神科医にかかれば告訴を取り下げるそうです」。精神科医が必要な人間だけあって、父は、「そうか、すぐこの家から出て行け。失せろ! 今すぐ!」とキレて怒鳴る。母は、夫はかなりの重症だと悟り、信仰に救いを求めようとする。そして、バートを呼び寄せると、天国にいる母に向かって「助けてちょうだい」とお願いする。「救い難い」レベルは、似たようなものだ。
  

ある 霧のかかった日、バートが教会に行こうとフェハイユ邸の前を通ると、パトカーが停まっていた。何事かと思ってバートが見ていると、ピーターが連行されて行く(1枚目の写真)。金の聖杯の窃盗容疑だ。ミサの式典が終わり、神父が寄附金の話を始めると、暇になった侍者の4人が内緒話を始める。ハーマン:「おい、ウィリー、ママが言ってたぞ。ピーターが金の聖杯を盗んだけど、どこにも見つからないって」。フロス:「あいつらクズだ。親爺はエロビデオ売ってるし、お袋は体を売ってる」。ウィリーは、「だけど、モニクはイカすよな」と憧れるように言う(2枚目の写真)。「病気だけどセクシーなんだ。僕は、毎晩、彼女を想ってシコってる。あのおっぱい…」。バートは「止めろよ」と、たしなめる。「何だ、おっぱい嫌いなのか?」。フロス:「バートは、小便する時しか あれを使わないもんな」。3人は、バートを笑う。
  

バートは、教会の寄附金集めの一環だからと口実を設け、禁を破り、ビデオ店に入る。ピーターの父は、「やあ、バート、久し振りだな」と声をかけてくれる。商売は俗悪かもしれないが、人柄はバートの父より遥かにいい。バートは、奥のテーブルから伸びている女性の脚に気付く。中に入って行くと、それはモニクだった。しかも、何と、聖書を読んでいる。バートが、「やあ」と声をかけると、「ここで、何してるの?」と訊かれる。バートは、教会の寄附金集めの缶を見せる。「地上の天国はどうなったの? 私の家にはないみたいよ」。「体は、大丈夫?」。「元気よ。新しい薬を飲んでる。別の病気にかかったみたい」。そして、「長いこと、話してないわね」と寂しそうに言う。「だから、聖書を読み始めたの」(1枚目の写真)「美しい話だけど、到底信じられないわ」。「でも、全部ホントに起きたことだよ」。そして、「もう行くね。お金集めにいかないと」と微笑む(2枚目の写真)。モニクは、バートを呼び止め、振り返ったところを写真に撮る。そんなところは以前と同じだ。木の礼拝堂に行ったバートは、モニクに会ったことで誓約を破ってしまったので、天を仰いで赦しを乞う(3枚目の写真)。
  

あの警官と、コンビニの女店長との結婚式。シェフ神父の2人への祝福の言葉は、「永久の光が2人の上に輝きますように」から始まる。「病(やまい)の際も、イエス様の顰(ひそみ)に倣(なら)い、苦難に耐え、救済が得られますように」。これは、結婚式に相応しくないように思えるが、次の一節は最悪だった。「たとい、職を失い、財政的に行き詰まり、家を失うようなことになろうとも、罪を贖(あがな)う勇気が持てますように」。バートですら、父のことを言われたと思い、思わず伯父を見る(1枚目の写真)。しかし、精神病の一歩手前にいる父にとって、この発言は限度を越えていた。妻に、「いったい何なんだ?」と言うや、式の最中だというのに立ち上がる。そして、「俺に当て付けてるのか、シェフ?」と大声で訊く(2枚目の写真)。妻は、「座ってちょうだい。あくまで一般論よ」と必死に座らせようとするが、「神父だと、ふざけるな」と言うと、通路に出てきて、「俺たちに生き方を説くが、妹は放ったらかしか?」と怒鳴る。これに対し、せっかくの結婚式を台無しにされた警官は、「黙れ!」と怒る。「お前のことを言ってるじゃない」。「黙らんと、一発かますぞ、このブラバント野郎!」〔北ブラバント州の出身者は余程嫌われているのか?〕。「俺のTVを盗んだ警官は、ジプシーのキャンプに戻ってろ。この猫かぶりめが!」〔この警官は、ジプシ出身?〕。父は、警官に取り押さえられるが、逃げようとして横にあったマリア像にぶつかる。同僚の式に参列していた3人の警官が、見るに見かねて立ち上がったので、父はマリア像にしがみつく。警官達に引っ張られ、マリア像は倒れそうになり(3枚目の写真)、そのまま床に激突し、抱いていたイエス像が床に転がる。父は、警官に思い切り2発殴られ、連行される。この父親は、映画の中で一番不愉快な存在だ。
  

最悪の結婚式が終わった後、1人教会に残ったバートは十字架に向かって祈る。しかし、それは父のことではなかった。「もう、どうしたらいいか分かりません。モニクを忘れようとしましたが、できません。助けていただけますか? どうか、教えて下さい。お告げでも結構です」。木の礼拝堂に行ったバートは、そこでも、2本の樺の太い枝を十字に縛り、大きな十字架を木から吊るす。その後、時間の経過は分からないが、母の帰りをバス停で待っていたバートは、救急車がレンタル・ビデオ店に横付けになるのを見る。中から運び出されたのは、以前と同じように、鼻血で血まみれになったモニクだった(1枚目の写真)。救急車の後ろで、バートは恨めしげに天を見上げる。これは、期待していたようなハッピーな「お告げ」ではない。数日後、バートは、母と一緒に父の見舞いに病院を訪れる〔精神病だから?〕。途中で、ピーターたち3人の姿を見るので、モニクもここに入院している。バートと母は、内庭に向いて座っている父のところに行く(2枚目の写真)。母がバートを連れて来たのは、HAVO-VWOへの進学が許されたことを報告するため〔HAVOは12-17歳を対象とした一種の中高一貫教育、VWOは12-18歳を対象とした大学進学を前提とした高等教育〕。ということは、バートは12歳ということになる〔バートは13歳という設定なので、この矛盾が理解できない〕。ところが父は、自分がHAVO-VWOに行けなかったため、「俺より偉くなれると思ってるな?」と嫌味を言う。そして、「世間は恐ろしい場所だ。金のためなら平気で騙しもする。本当の地獄だ」と、偏狭な意見を押し付ける(3枚目の写真)。うんざりしたバートは、モニクを捜しに行く。
  

バートは、病院の廊下に飾ってあった赤いバラを抜き取ると、それを持ってモニクの病室に行く。ちょうど両親が部屋を出たところなので、場所はすぐに分かる。病室の中では、1人になったモニクが、インスタントカメラで自撮りをしている。バートが花束を持って入って行くと、モニクはすかさず写真を撮る(1枚目の写真、矢印)。「なぜ、来たの?」。「言いたいことがあるんだ」。「聞いたの?」。「君のためなら何でもするよ」(2枚目の写真)。「私、白血病なの。医者は、もう1つ試そうとしてるけど、もう助からないと思うわ」(3枚目の写真)。この言葉にバートは動転し、天を見上げ、モニクには、「みんな僕が悪いんだ。ごめんね」と謝り、病室から逃げるように出て行く。「来ちゃいけなかったんだ」。モニクが死めことになったのは、「お告げ」を求めたせいか? それとも、そもそも誓約を破ったせいなのか? 何れにせよ、自分のせいでモニクが死んでしまう。バートは自責の念で生きた心地がしない。
  

バートは、木の礼拝堂に行き、大事にしているモニクの写真を大事に持ち、天を見上げる(1枚目の写真、矢印はモニクの写真)。その時、視線が少しズレて、棚に目が行くと、何とそこには伯父の金の聖杯が置いてあった。バートは聖杯を手に取る(2枚目の写真、矢印は聖杯)。すると、背後からピーターの声がする。「感傷的な価値は お金には代え難いってお前の伯父さん 言ってた。だけど、親爺は、それに300ギルダー払わされた」〔1979年晩秋の300ギルダーは35700円、現在の約52000円。思ったより安いので18金ですらない?〕。「お姉さんのこと、本当に気の毒だね」(3枚目の写真、矢印は聖杯)。「まだ、お前の神様がいるじゃないか。金杯は戻ったし、罰金もおまけでついてる。だから、お前が姉さんのこと真剣に祈ってくれたら、うまくいくんじゃないか?」。バートは、心をこめて祈る。ピーターは、持参した赤ワインを聖杯に注ぎ、「モニクに」と捧げるように言う。
  

バートは、溜まったストレスを赤ワインのラッパ飲みで解消する〔ワインは2本ある〕。酔っ払ったバートは、木の上の台から、ピーターに向かって、「汝、バート・ヘーラッツと付き合うなかれ。父親は気が狂い、バートは罪をもたらすであろう。この小さき変質者は、汝の姉と床を共にしたのだから」と叫ぶ(1枚目の写真)。ピーターの方も、「俺は、これまで悪いことは考えなかったけど、一丁やってやるか」と言うと、礼拝堂の中に入って行き、マリア像を手に取ると、「いいおっぱいしてるじゃないか。一緒に踊ろうぜ」と言いながら何かしようとして、手にも持っていたランタンを床に落す。すると炎が燃え上がる。バートは、「奇跡だ! 燃える柴だ!」と叫ぶ〔出エジプト記3章にある「主の使は、柴の中の炎のうちに彼(モーゼ)に現れた。柴は火に燃えているのに、その柴はなくならなかった」による〕。しかし、バートが礼拝堂に入ってみると、火はあちこちに燃え拡がり始めていた(2枚目の写真)。火の勢いはどんどん激しくなり、バートは伯父の聖杯を救い出すこともできなかった〔ように見える〕。そして、逃げ出した2人は、礼拝堂が燃え尽きるのを呆然と見ていることしかできなかった(3枚目の写真)。
  

場面は、翌日の警察署に変わる。バートとピーターが取り調べ用のテーブルに座り、テーブルの上には聖杯が置いてある(1枚目の写真、矢印、後ろにいるのは、バートの母と伯父、見えないがピーターの後ろには彼の父親もいる)。警官は、「誰がやったんだ?」と鋭く訊く。母も、「バート、正直に話して」と言い、伯父も、「バート、真実を述べなさい」と言う。バートは、ピーターを庇うため、「僕達、一緒に盗みました」と嘘をつく(2枚目の写真、矢印は聖杯)。「僕が、ツリーハウスに隠しました」。伯父は、ピーターの父親の前まで行くと、「あんたは、こんな息子を持ったことを恥じるべきだ」と責める。父親は無言のまま立ち上がると、ピーターに「行くぞ」と声をかけ、ピーターは、平然と、「お金、返してもらったら?」と言う。2人が署から出て行くと、伯父は、「なぜ、あの少年を庇うんだ?」と訊くが、バートは答えない。
 

別な日、教会からの帰り、バートがフェハイユ邸の前を通ると、救急車が停まっている。モニクが病院から戻ってきたのだ。それと同じ日かどうかは分からないが、バートは、何もなくなった自分の部屋を眺めている。鞄を持って居間に行くと、空っぽになった部屋の中で、父がパイプチェアに座ってタバコを吸っている〔父も退院している〕。如何にも鬱病患者といった感じ。妻に促され、家を出るために立ち上がる。次のシーンでは、家の前に家具を積んだ台車付きの車が停まり、近所の人がさよならを言いに集まっている(1枚目の写真、矢印は鍵を閉めるバート)。前に伯父が結婚式で述べた「職を失い、財政的に行き詰まり、家を失う」が現実になった瞬間だ。母が運転して引越し先に向かう。着いたところは狭そうなアパート(2枚目の写真、矢印はバート)。中も恐ろしく狭い。父はまっすぐ中に入ると、先ほどと同じようにパイプチェアに座ってタバコを吸い始める。かなり重症だ。母は、「パパのことは心配しないで。薬がまだ効いていないの」と、バートを慰める。
 

アパートの狭い食卓に、シェフ伯父が来て夕食を一緒にとっている。そして、いきなりの発言。「バート、私は、君が教会で言ったことを、お母さんに話した」。母:「ベルギー人の女性との話よ。あなたと彼女が… ああ神様…」。バートは、「懺悔って秘密じゃないの?」と伯父に食ってかかる(1枚目の写真)。「そうだが、君の奇妙な空想癖が心配になってな。お母さんも知るべきだと思ったのだ」。母:「どこから、あんなこと思いついたの? もちろん、作り話よね? もし、本当だとしたら、それは大罪〔死に至る罪〕よ」(2枚目の写真)。「妹よ、作り話に決まっている。すべて、あのベルギー人の一家のせいだ。それに、いつも言ってるだろ。ヘーラッツ家〔父の家系〕には悪い血が流れていると」。「兄さんの言う通りだわ。このまま行けば、この子、きっと、お父さんみたいなってしまう」。「バート、君のお父さんは、すべてをぶち壊すような人間だ。君も混乱していると思う。君には、もっと安定した環境が必要だ。任せておきなさい、君を暗闇から出してあげよう。再出発するんだ」。バートには、伯父の話も信じられない。
 

ミサの日。シェフ神父が、「聖母マリアよ、我らの原罪のすべての穢れから救い給え」と祈りを捧げていると、そこに、モニクが車椅子を自分で動かして入って来る。それを見た神父は、祈りを中断する。バートは前に進み出て神父と並ぶ。モニクは、一番前まで行くと、「バート、質問があるの。なぜ、神は、私を死なせたがるの?」と訊き、持ってきた聖書を見せ、「あなたの聖書でも 答えは見つからなかった」と言う(1枚目の写真、矢印は聖書)。重い質問だ。神父は、「あなたが死ぬと、誰が言ったのかね?」と尋ねる。「医者はあきらめた。だから、私を家で死なせるの」と言い、ニットキャップを取ると、薬の副作用で脱毛した頭が剥き出しになる。モニク:「なぜなの?」(2枚目の写真)。バートの母が、「たぶん、神様は、あなたをとても愛しておられるからよ」と口を出す。バートには、この発言が理解できない。そこで、神父を見ると、「伯父さん… 僕にも理解できません。なぜ、神は死を望まれるのです?」と訊く(3枚目の写真)。神父は、「恐らく、あなたが罪に生きているからであろう」と酷(むご)い答え方をする。モニクは、「私、罪のある生き方をしている人を一杯知ってるけど、死には しないわ」と反論する。神父:「代わりに、その者たちは地獄に落ちる」。モニクは、「恐怖、罪悪、地獄… あなたの神は愛じゃなかったの?!」と言い、聖書を投げつける。そして、大声で喚くと、バートを恨めしそうに見て、去って行く。それにしても。この伯父はひどい。彼にも「悪い血」が流れているに違いない。
  

バートは、燃え落ちた礼拝堂に行き、天に向かって叫ぶ。「モニクは正しい! あなたは、死をもって罰するべきじゃない!」(1枚目の写真、息が白くなっている→かなりの低温)。そして、手当たり次第に蹴飛ばす。すると、箱の下から1枚の紙が出て来る。それは、「St.Barbara in Wezenlaer」という架空の巡礼地で、一番似ているのがフランスにあるルルド(Lourdes)の泉。この水を飲めば、医師に見放された死の病も治るとされ、マサビエル(Massabielle)の洞窟もある場所だ〔ルルドはスペインとの国境近くにあり、遠くて行けない〕。Wezenlaerは、西ドイツ国内でもオランダ国境から近い場所にあるという設定。バートは、この巡礼地のパンフレットを見て(2枚目の写真)、これこそモニクを救う道だと確信する。
 

この日も、伯父はアパートに来て、夕食をとっている。「中がまだ凍ってるぞ」と文句を言うので、食べに来る方も問題だが、母の調理にも誠意がない。バートは、そんな兄妹〔伯父と母〕を、うんざりした顔で見ると、何も言わずに外出着をはおる(1枚目の写真)。そして、そのまま車庫に行くと、無断で車を外に出す。車の音に気付いた母が飛んで行くと、バートが出て行った後だった(2枚目の写真)。バートは、フェハイユ邸の前に車を停めると、すぐ中に入って行き、ソファで寝ているモニクを起こす。「これから君を助けるからね」(3枚目の写真)。「何て?」。「僕を信じて」。「何するの?」。「ウェイスラーに行くんだ。神様には任せておけない」。母の一報を受けて、パトカーがフェハイユ邸に来る。バートが乗ってきた車が停まっているので、警官は中に見に行く。その隙に、バートは、メルセデスにモニクを乗せ、ウェイスラーに向かう。途中で、ビデオショップの前を通った時、モニクの父は自分の車が盗まれたことに気付く。
  

車の中で、モニクはバートから渡されたパンフレットを読むが、いくら “多くの奇跡的な治癒”といっても、キリスト教に由来したものなので、モニクの顔は晴れない。それでも、「私が治ったら、私たちどうする?」と訊き、「一緒に映画に行こうよ」と言われ、その子供っぽさに微笑む。そして、西ドイツとの国境。2人のパスポートはオランダのもの。しかも、バートのパスポートは父のもの〔顔写真は父〕。おまけに車のナンバープレートはベルギーのまま。当然、怪しまれる(1枚目の写真)。モニクは、「踏んで」と声をかけ、バートは警備の弱い田舎の国境を突破する。それからどのくらい走ったのか分からないが、少し暗くなっただけなので遠くても数10分程度だろう。2人の車は、駐車場に着く(2枚目の写真、矢印、中央上部にトンネルの入口が見える)。バートは、モニクを車椅子に乗せ、トンネルに向かう。入口近くでカンテラをもらうと、背後でパトカーのサイレンが聞こえる。2人は時間の余裕がないことを悟る(3枚目の写真、矢印はランタン)。
  

トンネルはかなり長かったようで、2人がトンネルの出口まで来ると、外はもう真っ暗になっていて、雪が降りしきっている(1枚目の写真)。バートは、多数のロウソクに囲まれた聖バルバラ像の前まで行く。そして、イスに座る。何も起きないので、モニクが、「それで?」と訊く。バートは、イエスに頼らざるを得なくなる。そこで、「主よ、私は自分の屋根の下にあなたをお迎えするほどの者ではありません。ただお言葉を下さい。そうすればモニクは癒されるでしょう」と唱える〔マタイによる福音書の8章の変形〕。何も起きない(3枚目の写真)。「神様… 彼女を助けて… 死なせないで… あなたは愛でしょ… なら示してよ」。何も起きない。
  

「神様! 神様!! お願い!!」。必死に願うバートを見て、モニクは、「効かないわ。私、信じていないもの」と慰める。バートは、「違うよ。僕の信仰が足りないんだ」と言って泣く。そこまで愛されていることに感動したモニクは、バートに何度も優しくキスをする(1枚目の写真)。すると、白い光が森を照らし、聖バルバラ像を美しく浮かび上がらせる(2枚目の写真)。2人は、奇跡が起きたと思い、思わず立ち上がる(3枚目の写真)。しかし、次の瞬間、それは2人の密入国者を捜索に来たヘリコプターのサーチライトだと分かる。結末は残念だが、映像は美しい。雪のシーンとしては、歴代の映画でも 一番美しいのではないだろうか?
  

すぐにパトカー2台と護送車が到着する(1枚目の写真)。2人は護送車に収監される。試みは失敗に終わったが、車内の2人は恋人同士の雰囲気だ(2枚目の写真)。バートは子供だし、モニクは死の病なので、恐らくすぐに釈放されたのであろう〔未成年なので、バートは運転はできないが〕
 

それから、どのくらい経ったのかは分からない。バートのアパートに電話がかかってくる。「バート・ヘーラッツです」(1枚目の写真)。しばらく聞いていて、「分かりました。今、行きます」と言って切る。バートが出かける用意をしていると、伯父の朝食をセットしながら、母は、「いい考えだとは思わないわ」とバートを牽制する。「何か言ってやってよ」。今度は伯父が、「子供には相応しくないな。私は何度も経験したが、嫌な思いをするだけで、得るものは何もない」と反対する。そこに、背広に着替えてきた父が2階から下りてくる。そして、義兄に向かって、「シェフ、俺が戻って来る前に、家を出てってくれ。あんたの顔は二度と見たくない」と、きっぱり言う。「あなた!」。父は、「お前のことは愛してるが、口を挟むな」と母に言うと、義兄に、「出て行け、本気だぞ」と怒鳴る(2枚目の写真)。そして、「行くぞ、バート、乗せてってやる」と声をかける。この時だけは、この父親に拍手を送りたくなる。それほど、伯父は厚かましくて非常識だった〔神父としては不見識の極み〕
 

フェハイユ邸に着くと、2人は客間に通され、ピーターが2人にビールを持って来る。渡し終わった後、「2ギルダー10セントだよ」と言うのは、冗談か? ピーターの父が、お菓子を持ってくる(1枚目の写真)。4人が食べていると、医者がモニクの部屋から出てきて、母親は少し泣いている。モニクの母:「あなたと話したがってるわ」。バートは部屋に入り、ベッドサイドに座る。モニクは、「あなたの夢を見てた」と言う。「それで、どうだった?」。「あなた18だった。とてもロマンチックだったわ」。「それから?」。「泣いたの」。それだけ言うと、モニクは、ベッドサイドに置いてあったプレゼントをバートに渡す(2枚目の写真、矢印)。それは、モニクが撮り貯めたインスタントカメラの写真だった〔一番上にあったのは、ツーショットの写真〕。「私たち、二度と会えないわね。ほんとにごめんなさい」。モニクは、バートにつかまって何とか体を起こすと、「あなたのせいだなんて思わないで欲しいの」(3枚目の写真)。バートが頷く。「私の運が悪かったの」。2人は生涯で最後のキスを交し(4枚目の写真)、「愛してる」と、お互いに言い合う。最後に、2人並んでベッドに横になると、モニクが横にあったインスタントカメラを取り、バートが腕を添えて、ツーショットの写真を撮る(5枚目の写真、矢印)。
    

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